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札幌地方裁判所 昭和46年(む)288号 決定

被疑者 柴田司郎

決  定

(事件名、住居、職業、氏名、生年月日略)

右の者に対する頭書被疑事件につき、昭和四六年六月二日札幌地方裁判所裁判官がなした被疑者を札幌拘置支所に勾留する旨の裁判に対し、札幌地方検察庁検察官から勾留場所を代用監獄札幌中央警察署に変更することを求める準抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件準抗告の申立はこれを棄却する。

理由

一、(申立の趣旨及び理由)

本件準抗告申立の趣旨及び理由は、検察官山田健三提出の準抗告申立書記載のとおりなので、ここにこれを引用する。

二、(当裁判所の判断)

一、本件記録によれば、昭和四六年六月二日札幌地方裁判所裁判官石川善則が、右被疑者に対する競馬法違反被疑事件につき、被疑者を代用監獄札幌中央警察署に勾留することを求める札幌地方検察庁検察官山田健三の勾留請求に対し、札幌拘置支所を勾留場所とする勾留の裁判を為したことは明らかである。

二、ところで、現行刑事訴訟法上の勾留制度の趣旨、目的、刑事訴訟規則一四七条において勾留場所の記載を勾留請求の要件としていないこと、および監獄法一条一項四号、三項の文理を合わせ考えれば、勾留場所は本来拘置監たる監獄とすべきものであり、これを代用監獄たる警察署付属の留置場とするのはそれを必要とする特段の事由のある場合に限るべきものと解するのが相当である。

三、そこで、本件につき右特段の事由が存するか否かにつき判断するに、被疑者は本件被疑事実につき、岩佐某なる者の幇助的役割をしていたにすぎない旨弁解しており、そのために申立人の主張するように、被疑者の弁解をききながら、関係者の取調べをすすめ、また関係者の供述に対応してさらに被疑者の供述を求め、相互の供述の矛盾などについて直ちに取調べをなして事案の真相を究明しなければならないことも予想されるが、本件記録によれば、右岩佐某なる者はいまだ所在捜査中であつて、その供述がいつ得られるものか全く不明である。

申立人は、本件は営業犯的な犯行でその余罪も取調べなければ真相をはあくし難く適切な処分意見を決し難いところ、客となつた相手方は多数で、参考人(客)の供述と被疑者の供述との矛盾点の取調べおよび面通しが必要である旨主張するが、申立人の主張する余罪に関する参考人の所在が必ずしも明らかでないばかりでなく、前記岩佐某やこれら参考人の所在が判明し、その供述が得られたとしても、被疑者の供述との矛盾点等の取調べのために拘置監に赴くことが、多少の不便があるとはいえ捜査を不可能または著しく困難ならしめるものとは到底認め難い。

また面割りの必要性の点についても、本件被疑事実については被疑者はノミ行為の受付をしている最中に現行犯で逮捕され、その際同所においてノミ行為の客となつた者も被疑者と親しい者でありかついつしよに現行犯で逮捕されているのであつて、また電話でノミ行為の客として申し込んできた四名の者についても被疑者と顔見知りであることが認められ、いずれもあらためて被疑者に面通しさせる必要性にとぼしく、その他の考えられる参考人についても、写真による確認方法では不十分である等特段の事情について疎明のない本件においては、勾留場所を拘置監にすることによつて捜査上特段の支障を来たすとは到底認め難い。

他に本件について勾留場所を代用監獄とすべき特段の事由は認められない。

三、(結論)

よつて本件準抗告の申立は、理由がないので、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。

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